7. 肺動脈腫瘍塞栓症による呼吸不全にて死亡した胃癌の一剖検例

【症例】51歳, 男性【主訴】呼吸困難【既往歴】糖尿病【現病歴】平成16年6月上旬より体動時に増強する息切れを自覚, 徐々に増悪し7月2日に近医を受診. SpO2 84%と低下を認め, 当科紹介入院となった. 【入院時現症】意識清明. 脈拍120/分, 呼吸18/分. 表在リンパ節を触知せず, 胸・腹部理学的に異常なし. 【入院後経過】room airの動脈血ガス分析にてPaCO2 26.8Torr, PaO2 47.6 Torrと低CO2・低O2血症を認めた. 心エコーにて右心負荷所見があり, また, 肺血流シンチにてびまん性に欠損像を認めた. 胸腹部造影CTでは肺野に明らかな異常影はなく,...

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Published in:THE KITAKANTO MEDICAL JOURNAL Vol. 55; no. 4; p. 397
Main Authors: 岡田純卓, 小林裕幸, 樋口清一, 野本泰介, 松本純一, 荒井泰道, 杉戸美勝, 月岡大吾, 山岸高宏, 田中伸幸, 江熊広海, 狩野華子, 鈴木豊
Format: Journal Article
Language:Japanese
Published: 北関東医学会 01-11-2005
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Summary:【症例】51歳, 男性【主訴】呼吸困難【既往歴】糖尿病【現病歴】平成16年6月上旬より体動時に増強する息切れを自覚, 徐々に増悪し7月2日に近医を受診. SpO2 84%と低下を認め, 当科紹介入院となった. 【入院時現症】意識清明. 脈拍120/分, 呼吸18/分. 表在リンパ節を触知せず, 胸・腹部理学的に異常なし. 【入院後経過】room airの動脈血ガス分析にてPaCO2 26.8Torr, PaO2 47.6 Torrと低CO2・低O2血症を認めた. 心エコーにて右心負荷所見があり, また, 肺血流シンチにてびまん性に欠損像を認めた. 胸腹部造影CTでは肺野に明らかな異常影はなく, 肺動脈の血栓像・下肢深部静脈血栓像も認めなかった. 縦隔と腹腔内リンパ節腫脹があり, また, CEA 16.5ng/mlと腫瘍マーカーの上昇を認めたため, 腹腔内の悪性腫瘍による多発微小肺腫瘍塞栓を疑った. ヘパリンの持続点滴を行なったが, 第二病日, 強い呼吸困難を訴え, 直後に呼吸停止, 永眠された. 【剖検所見】胃体下部小弯側にBorrmann3型の胃癌を認めた. 病理学的には低分化型腺癌であり, 深達度はSEであった. 胃の周囲のリンパ節を始め, 大動脈周囲, 縦隔, そして左頸部にも大豆大のリンパ節腫脹を認め, 組織学的に腫瘍細胞の転移を認めた. 肺の肉眼所見では太い肺動脈内に血栓を認めなかったが, 割面では白色の小結節がびまん性に見られた. 顕微鏡所見では, 末梢の肺動脈に腫瘍細胞の塞栓が見られ, 内膜は著しい線維細胞性肥厚を示していた. 狭小化した内腔には血栓が充満していた. 以上の所見より, PTTM(pulmonary tumor thrombotic microangiopathy)の状態であったと考えられた. 【結語】PTTMとは, 腫瘍細胞のみの塞栓症とは異なり, 末梢肺動脈に腫瘍細胞の塞栓・浸潤とともに内膜の著しい線維細胞性肥厚(fibrocellular intimal proliferation)を認めるものである. 臨床的には(1)病変は末梢肺動脈にびまん性に存在する (2)原発は胃癌であることが多い (3)生前に診断されることが少ない (4)有効な治療法が存在しない (5)症状発現後の経過が急激である事が多いといった特徴がある. 腫瘍細胞による凝固系の活性化や血管内皮への直接作用が内膜肥厚の原因と考えられているが, 病態の詳細は不明である. 本症例では, 腹腔・縦隔リンパ節への転移が多数見られた事より, 胸管を経てリンパ行性に腫瘍細胞が大循環系に入り, 肺動脈腫瘍塞栓をきたしたものと推定された. 悪性腫瘍の存在が不明である場合, PTTMの生前確定診断は困難である. しかし, 肺動脈血栓症が疑われるが画像上で肺動脈血栓が明らかでない場合にはPTTMを鑑別する必要があると考えられる.
ISSN:1343-2826