肝癌の分子生物学

肝癌発生のメカニズムについて,遺伝子レベルからの様々なアプローチが行われている.ヒト肝癌細胞においてはc-ras, c-mycなどの癌遺伝子の活性化がみられる.しかし,非癌部の肝硬変組織においても,癌遺伝子の活性化がみられ,癌遺伝子の活性化のみでは発癌に至らないことを示すとともに,硬変肝の肝細胞は肝癌準備状態にあることを示している.もう一つの遺伝子レベルの変化として,癌抑制遺伝子p53の不活性化がある.肝癌の発生には癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の不活性化が共に関与している可能性がある. B型肝炎ウイルス(HBV)関連肝癌に於いては高率に,ホストゲノムへのHBVゲノムの組み込みがみられる. H...

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Published in:日本内科学会雑誌 Vol. 80; no. 10; pp. 1687 - 1693
Main Author: 戸田, 剛太郎
Format: Journal Article
Language:Japanese
Published: 一般社団法人 日本内科学会 10-10-1991
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Description
Summary:肝癌発生のメカニズムについて,遺伝子レベルからの様々なアプローチが行われている.ヒト肝癌細胞においてはc-ras, c-mycなどの癌遺伝子の活性化がみられる.しかし,非癌部の肝硬変組織においても,癌遺伝子の活性化がみられ,癌遺伝子の活性化のみでは発癌に至らないことを示すとともに,硬変肝の肝細胞は肝癌準備状態にあることを示している.もう一つの遺伝子レベルの変化として,癌抑制遺伝子p53の不活性化がある.肝癌の発生には癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の不活性化が共に関与している可能性がある. B型肝炎ウイルス(HBV)関連肝癌に於いては高率に,ホストゲノムへのHBVゲノムの組み込みがみられる. HBVゲノムの組み込みと発癌との関連については,トランスゲニックマウスを用いて現在二つのモデルが提唱されている.一つはX遺伝子あるいはpre S/S遺伝子のトランス活性化作用によるとするもの,もう一つはHBVゲノム産物(Lポリペプチド)の大量蓄積による肝細胞壊死,炎症,再生のくりかえしが肝癌細胞を作り出すとする考え方である.
ISSN:0021-5384
1883-2083
DOI:10.2169/naika.80.1687