外傷性偽関節治療における電磁場刺激法の有効性

骨折に対する治療において, 骨折部を固定することにより骨癒合が得られることは, 紀元前より知られていた事実であり, 骨折治療の歴史はある意味では固定法模索の歴史と言い換えることが出来る. 骨折肢を早期に運動, 荷重, 歩行させることによって, 保存的な治療によって頻発したfracture diseaseを克服するために, 骨接合術が導入された. 骨接合の発展にはX線の発見, stainless steelの導入, 抗生剤の進歩など多くの要因が関与している. 長管骨骨折の治療では, プレート固定と髄内釘法による発展が大きく, 閉鎖性髄内釘固定法は比較的低侵襲で強固な固定が可能な点からも, 確立さ...

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Published in:Journal of Nippon Medical School Vol. 68; no. 6; pp. 556 - 557
Main Author: 伊藤博元
Format: Journal Article
Language:Japanese
Published: 日本医科大学医学会 15-12-2001
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Summary:骨折に対する治療において, 骨折部を固定することにより骨癒合が得られることは, 紀元前より知られていた事実であり, 骨折治療の歴史はある意味では固定法模索の歴史と言い換えることが出来る. 骨折肢を早期に運動, 荷重, 歩行させることによって, 保存的な治療によって頻発したfracture diseaseを克服するために, 骨接合術が導入された. 骨接合の発展にはX線の発見, stainless steelの導入, 抗生剤の進歩など多くの要因が関与している. 長管骨骨折の治療では, プレート固定と髄内釘法による発展が大きく, 閉鎖性髄内釘固定法は比較的低侵襲で強固な固定が可能な点からも, 確立された極めて有用な治療法といえる. しかし, 近年高エネルギー外傷などの増加とともに, 重症度の高い骨折患者も増加し, 全例が順調に経過する訳ではなく, 骨癒合不全を来す症例数も増加傾向にあると言える. 骨折後の癒合不全に対して, 骨癒合過程促進のために多くの方法が試行されて来たが, 1953年保田は家兎大腿骨の一端を固定して, 他方に重錘を架けて撓ませることにより上方の凸側が陽性に, 下方の凹側が負に荷電する事を発見, 骨の圧電現象:Piezoelectricityと命名した. さらに保田は, 骨に電極を刺入して微弱電流を通電すると, 陰極側に大量の仮骨を形成する事を報告, 電気的仮骨と命名し臨床応用が行われるようになった. 教室の元文と行った研究では, 直流電気刺激の軟骨への影響をみるために, 家兎脛骨近位端成長軟骨板を微弱電気刺激して, その効果を組織学的に観察した. 脛骨近位成長軟骨板に1mm径の骨孔を作成して陰極を刺入し, 体内に埋め込んだ刺激装置にて5μAの電流による刺激を行い, 反対側をshame operationによる対照として, 2週間後の変化を観察した. 成長軟骨板の陰極周囲に著名な変化が認められ, 静止細胞層は対照側と変わらないが, 増殖細胞層が増大し, 細胞数, 軟骨基質の増加も著名である. 成長軟骨板の厚さを比較するため, トルイジンブルー染色標本より電極周囲の最高点を中心とした計3カ所の厚さを測定した. 23肢での平均値は, 対照群では0.6±0.2mmに対して刺激群では1.0±0.4mmと, 1%の危険率にて統計学的な有意差を認めた. この様に微弱電流の, 軟骨組織に対する増殖的な作用を確認した. 一方, 米国における研究は骨, 軟骨, 神経, 軟部組織など多岐にわたり, 電流負荷の方法も直流, 交流, 体内埋没, 電極刺入法, 体外法などが行われて来ている. コロンビア大学のBassett教授は, 電磁場刺激による方法を開発し発表した. Bassett教授と行った共同研究では, ラットの坐骨神経再生に対する微弱変動電磁場の効果を, 組織学的, 機能的な点から検討し, 対照群に比して早期より機能的な回復が起こり, 再生速 度にも有意の差のあることを報告した. また臨床的には, 骨折後の癒合不全に対する電磁場刺激療法の臨床的研究を本学にて継続してきた. 対象は73症例で, 平均年齢43.6歳, 受傷原因は交通事故が最多で80%以上を占め, 受傷時30例(41%)が開放性骨折, 15%が骨髄炎を併発していた. 受傷より本法開始までの罹病期間は平均1年4ヵ月. 手術の既往は1症例あたり18回を示し, 何れも難治性骨折症例であった. 罹患部位は, 脛骨42例, 大腿骨21例, 上腕骨7例などで, 脛骨, 大腿骨症例が86%である. 治療方法は患部をキャストにて固定後, コイルを装着して夜間連続8時間の刺激を行った. 刺激装置は年代とともに変化したが, コイル内の平均磁束密度は0. 2mTで, 骨に誘導される電流は1mv/cmである. 下肢骨では完全免荷として治療を開始し, X線像にて骨癒合状態をみながら, 外固定を装具などに変更し, 治療成績はX線所見と臨床症状により評価した. 治療成績は, 脛骨で42例中37例(88%), 大腿骨では21例中18例の骨癒合が得られ, 全体では73例中63例, 86%に有効性が認められた. 10例が無効例となった. 骨移植術と併用した22例では, 全例に比較的早期, 且つ良好な骨癒合が得られた. 本療法を行う上での骨癒合に影響を及ぼす臨床的因子を検討したが, 患者年齢, 性別, 骨折部位, 感染の有無, 障害期間, 手術回数などには関連性は認められなかった. 無効例の原因を分析する1方法として, 骨癒合不全を過剰仮骨型, 骨硬化型, 無仮骨型, 骨萎縮型, 骨欠損型の5タイプに分けたWeberのX線分類により検討した. 無効10症例の内訳は, 脛骨5例, 大腿骨3例, 上腕骨, 前腕骨各1例である. 脛骨の無仮骨型では12例中4例, 大腿骨の萎縮型では3例中3例が無効となっている. 本来, 骨萎縮型, 骨欠損型には骨移植との併用が必須であるが, この分析結果から骨折端部の生物学的活性の差により, 明らかに2群に分ける事が出来るとの結果が得られた. 電磁場刺激療法は非侵襲的で適応範囲は広いものの, 本来の非手術的な特徴を生かすためにも適応の厳密な見極めが重要である. また, 軟骨性の骨癒合に電磁場刺激の有効率が高いとの報告もあり, 今後臨床的にもevidennce based medicineを目指す必要がある. 磁場刺激の作用機序に関して, 遠藤は家兎肋軟骨細胞を用いた実験系からPTH添加時に細胞内cAMPレベル, オルニチン脱炭素酵素活性, グリコサミノグリカン合成を促進するという一連の反応過程を亢進し, この反応を通して分化機能を亢進しているのではないかと述べている. 電磁場を含めた電気刺激の作用機序は, 未だ不明であり, 仮説の域を出てはいない. メカニカル, ストレスなどの物理刺激, 電気刺激が骨形成に直接作用, または液性因子, 成長因子などを介して作用する可能性が示唆されており, 今後更なる検討を行って行く積もりである. また, 非侵襲的, 副作用の全く無い本法による治療の可能性を, 模索していかねばならないと考えている.
ISSN:1345-4676