WHO/ISH高血圧管理1999年のガイドラインについて
高血圧は一般臨床で最も多く遭遇する疾患の一つであり, 本邦における患者数は3,000万人と推定されている. 高血圧管理に関し種々の勧告案が多年に渡り報告されてきたが, 特に世界保健機構(WHO)は世界高血圧学会(ISH)と共同で, 1983年, 1986年, 1989年, 1993年と今回の1999年の合計5回の血圧管理のガイドラインを提唱してきている. 1999年に発表になったWHO/ISH高血圧管理ガイドライン1は, 従来の血圧基準を変更した画期的なガイドラインとして話題を呼んだが, 近年の高血圧に関する大規模トライアルの結果を踏まえ, 全世界に基本となる高血圧に関するガイドラインとして発...
Saved in:
Published in: | Journal of Nippon Medical School Vol. 67; no. 3; pp. 220 - 221 |
---|---|
Main Author: | |
Format: | Journal Article |
Language: | Japanese |
Published: |
日本医科大学医学会
2000
|
Online Access: | Get full text |
Tags: |
Add Tag
No Tags, Be the first to tag this record!
|
Summary: | 高血圧は一般臨床で最も多く遭遇する疾患の一つであり, 本邦における患者数は3,000万人と推定されている. 高血圧管理に関し種々の勧告案が多年に渡り報告されてきたが, 特に世界保健機構(WHO)は世界高血圧学会(ISH)と共同で, 1983年, 1986年, 1989年, 1993年と今回の1999年の合計5回の血圧管理のガイドラインを提唱してきている. 1999年に発表になったWHO/ISH高血圧管理ガイドライン1は, 従来の血圧基準を変更した画期的なガイドラインとして話題を呼んだが, 近年の高血圧に関する大規模トライアルの結果を踏まえ, 全世界に基本となる高血圧に関するガイドラインとして発表されたものである. 従来のガイドラインに比較し, 種々の点で改訂さており, 日常臨床でも有意義な点が多い. 本稿では本ガイドラインの主な点を解説する. 1. WHO/ISH高血圧管理1999年のガイドラインの特徴 本ガイドラインの特徴は以下の6点である. 1)血圧の区分を米国合同委員会第6次報告の基準(JNC-VI)2と一致させた. 2)血圧管理に血圧値以外のリスクファクターを加え, 患者を低リスク, 中リスク, 高リスク, 超高リスクの4群に区分した. 3)降圧目標値を130/85mmHgとした. 4)第一選択薬を利尿薬, β遮断薬, Ca拮抗薬, ACE阻害薬, α遮断薬, AII受容体拮抗薬の6種類にした. 5)evidence-based medicine(EBM)にもとづき作成した. 6)各国固有のガイドライン作成の重要性を強調している. 5と6番の特徴は, 各国で生活習慣や医療環境が異なり高血圧による合併症の発生状況も違うことより, 高血圧治療の問題点を各国別に検討し, 独自の介入試験を実施し, 固有のガイドラインを作成する必要性を強調している. 本邦の現状では大規模治験が容易に実施できる環境にないが, 近年のCa拮抗薬に関する治験を端緒に, 今後の発展が望まれる. 以下3つのポイントについて解説する. 2. 血圧の区分および降圧目標 代表的な血圧の分類は, 従来より米国合同委員会の報告とWHO/ISHガイドラインのものがあったが, 両者は必ずしも一致せず, 臨床家にとっては混乱の原因であった. 今回のWHO/ISHガイドラインはJNC-VI2と一致させて, 混乱の除去につとめている. 高血圧そのものの定義は従来と同様で, 収縮期血圧140mmHg以上かつまたは拡張期血圧90mmHg以上としたが, 降圧薬服用時の目標血圧レベルは, 従来より下方へ修正し130/85mmHgとし, さらに至適血圧という新たな概念を導入し, これを120/80mmHg未満とした. したがって降圧薬服用時の血圧は140/90mmHg未満でなく, 130/85mmHg未満とし, 従来より厳しくしている. 3. 血圧管理区分 従来の血圧管理区分は, おもに血圧値によっていた. 今回のガイドラインでは, 他の危険因子の存在, 標的臓器障害の有無, および心血管系疾患および腎疾患の有無の重要性を強調し, これらを加味した管理区分を提唱している. 管理区分は, 低リスク, 中等リスク, 高リスク, 超高リスクの4つに分類されているが, これは血圧高値持続による心血管イベント発生頻度の高さを意味し, 各群の10年間における心血管イベント発生率は, 低リスク群で15%未満, 中等リスク群で15~20%, 高リスク群で20~30%, 超高リスク群で30%以上であるとされ, リスクが高い群ほど厳格な降圧療法が望まれ, 直ちに薬物療法を開始し, 合併症の治療を徹底すべきであるとしている. この患者の層別化により, ライフスタイルの是正の継続時間, 薬物療法の開始時点など考慮するよう勧告している. リスクファクターの中では, 特に糖尿病の重症性を強調しており, 糖尿病を合併する高血圧症は, それだけで高リスク以上になり, 早期の降圧療法の必要性を指摘している. 4. 治療薬の選択 本ガイドラインでは, 第一選択薬を利尿薬, β遮断薬, Ca拮抗薬, ACE阻害薬, α遮断薬, AII受容体拮抗薬の6種類にしている. 日常臨床ではメチルドパなどの他の薬剤も頻用されているが, 降圧効果は薬剤間で顕著な差はなく, 降圧によって得られるメリットはほぼ同等であるとされる. したがって, どの薬剤を選択するかは, 各国固有の医療情勢に依存していることが多分にあるが, 各国固有の降圧療法のevidence-based medicine(EBM)にもとづき作成したガイドラインが重要である. この点で, JNC-VIは第一選択薬を利尿薬とβ遮断薬の2剤にしているが, 米国の医療情勢および米国におけるEBMにもとづく勧告案である. また, 薬剤の選択にあたっては, より積極的に適応がある病態を薬剤別に列挙しており, 他の薬剤に優先して使用すべき薬剤と規定されている. 例えば, 利尿薬では積極適応として, 心不全, 高齢者, 収縮期高血圧が挙げられており, このような病態では, 利尿薬が他の薬剤より優先して選択されるべきであるとしており, 日常臨床では有効に使用できる降圧薬選択指針が示されいる. 5. まとめ 本ガイドラインに示された図表は, 多くの点で日常の高血圧診療の目安になり, 診察室のデスクの上に置き, 高血圧診療に役立てていただけますよう願っています. 文献1. Guidelines Subcommittee:1999 World Health Organization-International Society of Hypertension Guide-lines for the Management of Hypertension. J Hyper tens 1999; 17:151-183. 2. Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure:The sixth report of the Joint National Committee on Prevention, Detection, Evaluation, and Treatment of High Blood Pressure (JNC-VI). Arch Intern Med 1997; 157: 2413-2446. (受付:2000年1月14日)(受理:2000年2月24日) |
---|---|
ISSN: | 1345-4676 1347-3409 |
DOI: | 10.1272/jnms.67.220 |